
"みいちゃんのような女の子”は珍しくない? 元キャバ嬢が語る、『みいちゃんと山田さん』が映す夜のリアル
エンタメ
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カワノアユミ
夜の街で笑っている彼女たちは、本当に「特別な存在」なのでしょうか。
亜月ねねさんの人気漫画『みいちゃんと山田さん』は、そんな問いを静かに投げかける作品です。
主人公のみいちゃんは、マイペースで感受性の強い女の子。どこか謎めいた大学生・山田さんとのやりとりを軸に、少しずれた会話やささやかな日常が淡々と描かれていきます。
そして物語は、第一話のラストで明らかになる衝撃的な展開へと向かっていきます。
※この記事には漫画『みいちゃんと山田さん』のネタバレが一部含まれます。
目次
"みいちゃんのような女の子”は珍しくない?元キャバ嬢が語る実情
『みいちゃんと山田さん』の作中で具体的な診断名が示されることはありません。しかし、その言動や周囲との関係性の描写からは、みいちゃんが何らかの生きづらさを抱えているのではないか、と感じさせる場面もあります。
物語の中では、周囲からその特性を指摘されるような描写もあり、読者によっては発達障害やパーソナリティの特性を重ねて受け取る人もいるかもしれません。
「ああいう女の子は、フィクションの中だけの存在ではない」――そう語るのは、作品の時代背景と重なる2012年頃、歌舞伎町でキャバクラ嬢として働いていたライターのカワノアユミさんだ。
夜の世界のリアルと、そこに集まる若い女性たちの事情について話を聞きました。
カワノさんによれば、みいちゃんの人物像は決して誇張されたものではないと語ります。
特別に“変わった存在”というよりも、どこか生きづらさを抱えながら夜の街に立っていた女の子たちの姿と重なる部分があったと振り返ります。
“カリスマキャバ嬢”の裏にいた、目立たない子たち
ー『みいちゃんと山田さん』を読んで、率直にどう感じましたか?
カワノアユミ(以下、カワノ):私が歌舞伎町で働いていた時期と時代背景が重なるので、懐かしさを覚えました。
当時は雑誌『小悪魔ageha』が流行していて、“カリスマキャバ嬢”が注目を集めていました。メディアでは”売れっ子キャスト”が取り上げられることが多かったですが、実際の現場にはまた違う空気もありました。
接客や人間関係に不器用さを抱えている子もいて、その姿がみいちゃんと重なりました。
ーみいちゃんの人物像に、夜の街で出会った女の子たちと重なる部分はありますか? 具体的にはどんなタイプの子を指していますか?
カワノ:はい。作中ではみいちゃんが衝動的な行動を取ってしまう描写がありますが、実際の現場でも、人との距離感をうまく保てない子はいました。
たとえば、お客さんと枕して指名を取ろうとしたり、待機中に寝てしまう、ストッキングを履かないで仕事をしている子……(当時のキャバクラはストッキングの着用が決められていた)。
そういった身だしなみや接客について、店長や女の子から注意を受けている子もいました。悪気があるというより、不器用さや自己管理の難しさを抱えているように見えることが多かったです。
不器用さは、夜の街ではどう受け取られるのか?
ー作中の描写で「これはリアルだ」と感じた場面があれば教えてください。
カワノ:キャスト同士の微妙な距離感はリアルだと感じました。勤務態度や接客・営業スタイルをめぐって、周囲が戸惑ったり距離を置いたりすることは実際にもあります。
ただ、その子を好きだと言ってくれるお客さんもいるので評価は一つではないんです。みいちゃんも特定のお客さんから人気がある描写がありますよね。
ー恋愛において、夜の世界に入ってくる女の子たちには、どんな共通点がありますか?
カワノ:作中では、みいちゃんが彼氏のマオくんに殴られてもお金を渡してしまう場面があるように“ダメ男好き”な子は多いと思います。ホストやヒモ状態の男性、夜職やグレーな業種に関わる男性と交際しているケースも少なくないです。
相手に尽くすことで自分の存在価値を確かめようとする傾向のある子は一定数います。外から見ると“なぜそこまで”と思われるかもしれませんが、夜の現場でも、恋愛の中で強く必要とされたいと思い、その関係にのめり込んでしまう子は少なくありません。
ーカワノさん自身がキャバクラで働いていた当時、どんな女の子が印象に残っていますか?
カワノ:私より少し年上で、高校を卒業後はずっと、会社勤めをしていた人がいました。ただ、彼氏ができてから、少しずつ“彼にお金を出している”という話を聞くようになりました。その後、収入を増やすためにキャバクラから風俗の仕事に移ったんです。
周囲から見れば“年齢的にも夜の世界に足を踏み入れることなく、そのまま昼職を続けて結婚する”という人生を思い描くかもしれません。
でも彼女は風俗で働き続け、その彼氏とは別れてからも、その後も似たような関係を繰り返していました。そういった世界とは無縁に見える人でも、何がきっかけで足を踏み入れるかはわからない。
あるいは彼女自身が、外からは見えない葛藤や価値観をもともと抱えていたのかもしれません。
夜の街は、生きづらさの“原因”なのか
ー夜の街は、みいちゃんのように生きづらさを抱えた子が集まりやすい場所だと感じますか?
カワノ:夜の街は“生きづらさの原因”というより、“受け皿”になることがある場所だと思います。ただ、その受け皿が常に安全とは限らない。
だから単純に善悪では語れないんです。たとえば近年、スカウトマンへの規制が強まりました。それ自体は必要な流れだと思っています。悪質な仲介や搾取があったのは事実です。
ただ私は、仕組みそのものよりも、それを利用して搾取する“個人”の存在のほうが、より直接的な問題になることもあると感じます」
ー『みいちゃんと山田さん』でも、キャバクラの店長がみいちゃんを風俗店に紹介して紹介料を受け取る描写がありました。
「作中の店長のように、立場を利用して利益を得る大人がいるのも事実です。どんなに規制をしても、こうした個人の搾取はなくなりません。
結局のところ問題になるのは“構造”と“人”の両方で、どちらか一方だけを悪と断じても本質は見えにくいと思います。
キャバクラは、救いなのか、それとも消耗なのか?
ーそうした構造の中で、キャバクラという環境はみいちゃんのような女の子にとってどんな場所でしたか? 救い? それとも消耗?
カワノ:キャバクラは最終的には実力が問われる世界ではありますが、一概に“消耗する場所”とも言い切れません。人によっては居場所になるケースもありますし、みいちゃんのように生きづらさを感じている子でも、評価されることで自己肯定感を取り戻す子もいます。
結局は、店の環境や周囲の関わり方による部分も大きいと思います。ただ、作中の時代と比べると、今は生きづらさに対して社会が理解を示そうとする動きも広がっているように感じます。
いい意味でも悪い意味でも、多様性が認められる時代になってきたのかもしれません。ただその中でも、“やっぱり自分は人と違うんだ”と感じてしまったり、無理を重ねてしまう子もいる。
だからこそ、一概に救いとも消耗とも言い切れない。感じ方は本当にそれぞれだと思います

夜の街で笑っている彼女たちは、決して「特別な存在」なのではないのかもしれません。生きづらさを抱えながら、それでも誰かに必要とされたいと願う姿は、場所が違うだけで私たちのすぐ隣にもある。
『みいちゃんと山田さん』が描いているのは、夜の世界の物語ではなく、その延長線上にある社会そのものなのかもしれません。





















