「男性は自分より賢くない女性が好き」という現実 『ロマンス暴風域』作者・鳥飼茜さんインタビュー【後編】
ナイトライフ
PR辻野祐馬
私たちはどんなときに、どんな人とセックスをしたくなるのでしょうか。「男性は誰とでもセックスをしたい」「女性は好きな人としかセックスをしたくない」というイメージがあるかもしれません。でもセックスを巡る事情はもう少し複雑。
セックスに対する男女の考え方もう少しきちんと知るべく、作品を通して“男と女の性の差”に斬りこんできた漫画家の鳥飼茜さんに話を聞きました。
ガールズバーの店員、気が強いが美貌と抜群のスタイルを持つ美大生、そして元カノなど、たくさんの女性に囲まれる中、主人公のサトミンはぽっちゃり風俗嬢・なっちゃんを選びます。
本題に入る前に“なっちゃん”と主人公・サトミンの出会いの経緯をご紹介。心から愛した女性・芹香との破局を迎えて傷心中のサトミンは、親友の結婚式の帰りに“ぽっちゃり”ヘルスに立ち寄ります。
そこでサトミンについたのがなっちゃん。彼女のウォーターベッドのような柔らかい体と申し訳なさげな佇まいに思うところがあったサトミンは、「俺の家で暮らす?」と彼女を誘い、同棲がスタートします。
男性は自分より賢くない女性が好き
――なっちゃんという女性は美人というわけでもなく、夢もなく何をやっても続かず、だらしなく生きているように見えました。なっちゃんを選ぶ男性の心理にはどのようなものがあると思いますか?
鳥飼:私自身がこれまでに付き合ってきた男性とケンカする度に感じてきたことですが、「男性は自分より賢くない女性が好き」という現実があると思います。
むしろ自分より賢い女性のことは嫌いなんじゃないかとすら。その意味で、体つきがふくよかで性的なアピールポイントとしての胸が大きく、あまり強く“我”感じさせないなっちゃんってエロくもあるよなあって思うんですよね。ある意味、お決まりの表情やシーンが必ずあるAVに近いのかも。
鳥飼:支配とまでは言わないんですけど、“知らない”者に教える楽しさっていうのがあるんじゃないかと思います。
私は20代の頃に、50代の男性と遊んでいたことがあって。私は当時、話がすごくおもしろいとか、自分に何か特別な魅力があるから相手をしてくれているもんだと思っていたんですよ。
――でも、違った?
鳥飼:今考えるとそんなの当たり前なんですけど、私は本当に友達だと思って接していたのに、ホテルに誘われて驚いてしまって。
“私”という人間でなく、ぷりぷりした若さに惹かれていたのかなと。そして無知な自覚がない私に、“空っぽの箱を埋めていく楽しさ”のような感覚で付き合ってくれていたんだなと思うんですよ。
あとは箱の中身ではなくて、箱の形とか外見だけを見ている。
――それこそ“我”を見ていないわけですね。そして最初の話に戻ると“我”が見えにくいほうが好まれると。
鳥飼:峰不二子のような女性だろうと、なっちゃんのような女性だろうと、人格はあるに決まっているのに、それが表面的な差によって伝わらないんですよね。
鳥飼:なっちゃんが何も考えずに流されるようにして“はい”と答えてしまったら、意思を持たないアンドロイドと同じになってしまいますから。だから、見えにくい“我”をどこかで出したかったんです。
男性に対して「どんなに自分に自信のない女性だって反抗するぞ」ということを警告したかったんです。最初の失恋以降、ちょっとサトミンの思い通りにいきすぎてましたしね。
セックスを通した“復讐”
鳥飼:女性もやってますよ。私もやっている。憧れて手に入らなかっただけではなく、付き合ったけど振られた相手とかのことを考えて、そうすることで“復讐”しているつもりはある。
得られなかったものは心の中に穴のまま残りますから。そこに代わりに何を入れても埋まらないけど、フチを固めることで自己肯定していくしかないから。
鳥飼:はい、不思議な感じで私はずっと19歳のときに別れた男性はいまだに、週1くらいで夢に出てきます。で、「やりなおそう」と言われる。そして起きてガッカリする(笑)。
10年以上見続けてますね。でも、もはやその人はその人ではなくて、成功しなかったことの集大成が、その人と勝手に紐づいているだけなんですけどね。
人によってはそれが、例えば高校時代にモテたかった人は女子高生だったり、女子大生だったりするのでしょう。
――夢に出続けるその男性ともし再会したら、セックスしたいですか?
鳥飼:それは思わないです。当時別れただけの理由があったはずだし、そのとき別れたということがあっての今だとも思うので。でも夢に出てくるのは、何かが埋まっていないんでしょうね(笑)。
女性目線だけのAVは成立しない
――私は男性なのでよくわからないのですが、女性も誰かを“抱きたい”と思うことはあるのでしょうか?
鳥飼:思いますよ! 私、たまに女性とセックスする夢を見ます。出てくる女性は“我”がなくて、置物に近いですけど。女性も男性目線でセックスをすることは多いんじゃないかと思います。
――男性目線でセックスをするというと?
鳥飼:女性は最初に、男性より女性に欲情すると思うんですよ。心理学的なことで言うと、女性は幼い頃に人形遊びをすることで、“女性らしい体”を学ぶわけで、その後もテレビでもアニメでも、“おっぱい”が出てくることで、社会が女性らしさを教えてくれます。
――女性は、男性の体より、女性の体をみて性を学んでいくわけですね。
鳥飼:そしていざセックスをするときは、自分の体が相手からどう見えているかを考えるわけです。自分が抱かれている姿を俯瞰してみて欲情するというか。
だから、完全に女性目線だけのAVというのは成立しないと思うんですよ。私自身がAVを見る時も、一生懸命腰を振っている男性を見て興奮するのでなく、ヤラれている女性を見て興奮するので。
――今の話を聞いて、セックスには女性を人形的に扱う部分もあるのかなと思いました。
鳥飼:女性側も少なからず人形的に扱われていることに興奮するということがベースにある気がします。刹那的な肉体であればあるほどエロいですからね。変な情報が入ると、そこから妄想や解釈が入ってしまうし。
――それもAVのような社会の“お手本”に沿った姿を目指しているわけですよね?
鳥飼:そうですね。特に最近感じるのは、AVとか関係ないファッション誌やSNSの自撮りでも、女性自身の感覚というか自己評価が、記号的な「エロっぽい私」イコール「可愛い私」になりつつあるな、と。
困り眉、とろんとした目、上気した頰、半開きの口、という表情をみんなが真似ている。これが行き過ぎて、「エロく見られる」ことが女子の至上命題みたいにならないと良いなと思いますね。
――社会が勝手に定義づけた“理想のエロい女性像”に対して、当てはまらない女性は価値がないかというと、決してそんなことはないですもんね。
鳥飼:はい、今は女性側もそれに乗っかって楽しい文化になっているように感じるので。“女豹”や“ヤリマン”が増えるのは悪いことではないのかもしれないけど、“そうじゃないとダメ”というのは違いますから。(辻野拓馬/ライター)
(オトナのハウコレ編集部)
▼ロマンス暴風域 (2)
‘81年、大阪府生まれ。’84年デビュー。『地獄のガールフレンド』(全3巻、KADOKAWA)、『先生の白い噓』(全8巻、講談社)を代表作にもつほか、近刊に『前略、前進の君』(小学館)、『マンダリン・ジプシーキャットの籠城』(KADOKAWA)がある。漫画だけでなく、『鳥飼茜の地獄でガールズトーク』(KADOKAWA)、『漫画みたいな恋ください』(筑摩書房)など、文筆業も精力的にこなす